は動くだろうと思っての事。
「御両親さえおいでになったら今頃は女御でいらっしゃったかも知れないのに御定命とは云えあんまり何でした」と一人の女が云う。乳母の娘は、
「ほんとうに、もう御年頃でもあるし私達が御つき申して居ながら姫様御一人どうすることも出来ないと云っては御亡くなりになった方にも相すまないし、又こんなところのことですから光君を置いては他に似合わしい方もいらっしゃらないし」
と几帳の影を見ながら云うと他の女達もが、
「ほんとうに私達はそればかりが心配で」
と云うあとをひきうけて、
「だれでも思って居る事です、まして先の短い私は命のうちに姫様の御婚礼の式のある様にとどれだけ祈って居るか知れません。何ぼ何と云っても姫様の様ではほんとうに困りますけれ共また常盤の君の様でもネ」
と遠慮のない乳母はあんまりずけずけした事を云うので娘は袖を引いて、
「マアそんな事を云うものではありませんよ。上様(兄君)だって『この方は近頃の女に似合わないかたい心を持っていらっしゃるたのもしい人だ。私の奥さんにしても恥しくない方だ』なんておっしゃったほどですもの誰だって姫様を悪く思ってやしません」
などと云う
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