れて魂はますますとんで行く。とんでとんでとびぬいてやがてもどった魂をもとにおさめてハッときづけば、無残、しとみ戸はとざされてその中から琴の音、ぞっとするような、うっとりするような、抱えたような、投げたような、海の中に柳が有ったらお月様のかげの中に身をなげてしにたいような、立って動かぬしとみ戸に影うすくよって聞く人は声なくて只阿古屋の小玉が頬に散る。余韻を引いて音はやんだ、人はまだ動かぬ。
(五)[#「(五)」は縦中横]
身じまいをしてかがやく様に美くしくなった姿を几帳の陰になつかしいうつり香をただよわせて居るのは此の部屋の主わずか十六の紫の君である。たきしめた白い紙に象牙細工のきゃしゃな手を上品に手習をして居る女君の様子はたとえられない様な美くしさである。まわりに居るものは乳母とその娘と外に四五人みな身ぎれいにして居ながら常盤の君の部屋の女のようにはでな所はみじんなくじみにしっかりした風の見えるのはかよわい女主人をもりたてなくてはと思う心づかいの結果であろう。女達は傍に女君の居るのもかまわずに此の頃の光君の様子等をいろいろと話し合って居る。少しでも云ったら女君の心
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