んなに悪く云うものではない、その強い所が彼の人の何よりも尊いところだと私はよろこんで居る。だれかの様な女は私はすきでない」
と思いがけない光君の声がしたので女達は悪いことを云ったと思って穴にでも入りたいような気持になった。それから間もなく光君の泣いて居るらしい気合[#「合」に「(ママ)」の注記]がするのでさっきの事でよけいに思いがましたのだろうと思って若い女達は「お可哀そうに」と重なり合って泣いて居ると、
「世の中に私ほどはかない事をたよりに生きて居る人はないだろう。私はもうじき死んででも仕舞う」
と云う言葉の末は涙にききとれないほどであった。日の落ちるまで光君は淋しさ、悲しさにたえられないと云うようにして居られたが夜に入ってから只一人うつむき勝に病上りのようにフラフラしながら細殿をあてどもなくさまよって居るといきなり女らしいなまめいた香に頭を上げて見ると光君の躰は目に見えない何物かに引かれて西の対へ来て居た。光君は去りにくい心持になって若しや彼の人の声はしないかしら、童にでも合えばなどとあてどもないことをたよりにしずまった細殿を行ったり来たりして居ると傍の部屋ではしゃいだ女の声で高ら
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