れて居る。
(四)[#「(四)」は縦中横]
此頃の光君の様子はまるで病んで居るようで朝から晩まで被衣をかぶって居られる。どうかして気をまぎらせたいと僧を呼んでお経をよませたり自分でよんだりして居られたけれ共有難い御経の文句も若君の心はなぐさめる事が出来なかった。さっきまでお経をよんで居た声がパッタリ止んでから今までよっぽど立つけれ共身じろぎする様子さえもないので年かさの女はそうとそばにすりよって様子をうかがって居たがやがて衣ずれの音を気にしながら元の座に帰って来ていかにも心配そうにうつむいたままで居るので女達は、
「どんな御様子でした、御寝になってるんでしょうか」と云うと只女は、
「御可哀そうな事です」と云ったきりで涙を流して居る。外の女達も人にかくして思いなやんで居る心根をいじらしがって化粧のはげるのも忘れて居た。ことに久しい間ついて居る女達なぞは、
「ほんとうにあの紫の君は憎い方だ、あの方さえやさしい心を持って居らっしゃれば君様を始めこんな悲しい思をしないものを。あんな美くしい御顔であんな強いお心を持って居らっしゃるとはほんとうに」と悪口を云って居ると、
「そ
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