うに心から御ねがい申すんでございますよ」
「女のかたは女相[#「相」に「(ママ)」の注記]志が好いでしょう」
「そりゃあ女もようございますが悲しくて涙の出るときにはいっしょに泣いて呉れるばかりでそれについて力づよいことを云ってくれるでもなければ力にもなってくれませんもの」
「もうめんどうくさい前おきはやめて早く中みをお云い下さい」
光君の声は恐ろしいまでにハッキリとキリキリした言葉であった。
「それじゃ申します、私は、――ほんとに御恥しいことですけれ共、貴方を、……御したい申して居りますの」
一寸赤いかおをして女は云いきった。光君はだまって女のかおを今更のように見た。
女はその小さい目に獣のような閃を見せながら、
「私達のような年になってする恋は仲々発しないかわりに命がけだと人は申しますもの」
男さえも云いにくいと思うことをこの女は平気でたった二十ばかりでこんなことを云った。
「向日葵ハ太陽の光ならどんなささいなのにでもその方に向きますが、月のどんなによくてる晩でもうなだれてしおれて居るのが向日葵です」
女は何の意味か分らないんで只だまって光君のかおを見つめて居た。
いきな
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