返事もしない。わきを向いたままである。
「ほんとうに、どうぞも少し御うちとけなさっても御そんは御有りになるまいに。私はこうしてたった二人きりになる時をどんなに前から待って居りましたろう」
「…………」
「まだ御だまり……
じゃあ、私が申しましょう。私はね……私はね前から、どうかしてしみじみと御はなしをして私の心を知っていただきたいと思って居りましたの。どうぞ御きき下さいませ」
「そうですか」光君はポツンと落《おっこ》ちたような返事をした。
「ネー、私なんかは両親ともないもんでございますもの、いくら年は大きくなりましてもほんとに心細いことばかりあるんでございますよ。それでね、明けても暮れても思うのはたった一人でもたよりになる人がほしいとねーそればかり思って居りますの。貴方無理だと御思になりますか」
「無理も無理でないも、そんなこと貴方の御勝手ですもの」
「そうではございましても、ネーそれじゃあ不□[#「□」に「(一字不明)」の注記]でなくしておいていただいて、そう思うんでございますの、どうか貴方になんでも私の心の内に有ることをうちあけて御相談出来るかたになっていただきたいとねー。ほんと
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