わるい笑をのぼせて居る。
 几帳のかげの光君はこれをきいていよいよいやみな女だと思ってかおを見たら云ってやることばまで考えて居た。いきなり几帳に手をかけた女は小声ではばかりながら、
「御ゆるし下さいませ、常盤の君の御云いつけでございますから……、御用心あそばせ」
と云いながら几帳をどけてしまった。その前には常盤の君が笑をいっぱいにたたえてすわって居る。
「何と云う人を見下げたことをする人だろう」
と思った光君の心は、男と云う名をきずつけられたような大きな□[#「□」に「(一字不明)」の注記]じをいだかせら□□□[#「□□□」に「(三字不明)」の注記]男の□□□[#「□□□」に「(三字不明)」の注記]は光君の口のはたに氷のような冷笑をうかべさせた。そしてとりつけた人形のようにわきを向いたまんまで居る。その様子にほほ笑んでひろげた口をすぼめて妙な目をした女は、
「マア何故そんなによそよそしい風をあそばしますの。同じ屋根の下に暮して居りますものを……どうぞも少し御うちとけなさって下さいな」
 あまったるい声で云う。光君は心の中で、
「何か云えば云うほどいやさがますばかりだ」
と思ってなんとも
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