こって母君と一生懸命に碁をうって居た。そして几帳のかげの光君に時々声をかけては、
「いらしって御加勢なすって下さいナ、何だか雲行があやしくなってしまいましたもの」
なんかと久しい、なれたつき合いのようにたまに口を交したことほかない光君にしゃべりかける。わきに居る母君等はもうとうとうに目の中に入れてしまって居る。
 しいるようないやみな女の様子を一寸でも見たくない光君は幾度声をかけられても身じろぎもしない。自分を孔雀のように美くしい孔雀のようなおごりのある女だと思って居る常盤の君は、
「ほんとうに皆さま私達によくして下さるのに、彼の方ばかりはネーほんとうにどうあそばしたんでしょう」
なんかと母君に云いかける。
「どうしたもんでしょうかね、――このごろそれに何だか考え込んで居るようですからね」
「でも案外なところにほんとうの悪い人がひそんで居るもんでございますもの」
 こんないかにも母がそそのかして居るんだろうと云うようなことを云うんで気の小さい母君は居たたまれないような心持になって、
「私は一寸、御めん下さい」
と云って立ってしまわれる。常盤の君は自分のもくろんだことがあたったので気味の
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