になって目はうるんで居る。兄君は又そうっと手をはなして女君とかおを見合わして押出したように笑って居る。
「もう来ないときまった人をまって居ても甲斐のないことだから始めようじゃあありませんか」
 光君は人が口をきいて居るような心地で云った。
 女は今更のようにどよめきたって、居ないと思った女達まで出て来て笑いどよめきながら貝合せをはじめる。光君は他人の手のうごくように夢中で面白味もなくやるのでつづけさまにまける、つづけてまけることはよけい光君の心をいらいらさせるばかりである。女達や兄君は興にのっていつまでもいつまでもつづけて居る。遊びのおわったのはもう灯のついてからよっぽどたってからで有った。
 遊びがすんでもまだ光君はどうも居どころがないように思われてしかたがないんで母君の几帳のかげで方坐の上によこになったまま、女の白粉のかおりや、衣ずれの音に夢のように紫の君のことを思って居た、ただ思って居ると云うだけでそれを深く研究するでもなく、自分の心をかいぼうして見るでもなく只思って居るばかりで有った。見た夢をまたくり返して居るような心地で、――
 兄君がかえってしまってからは常盤の君はまだ居の
前へ 次へ
全109ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング