に鉾先が自分の方に向ったのでびっくりして今更のように赤い頬をすると急に障子の外から、
「御免あそばして、……紫の君のところから御使にまいりましたが」
 まだにごりをおびない澄んだ童の声で有る。やがてとりつぎに女が出た様子で小さい声で何か云いあって居たが、
「それではよろしく御つたえ下さいますように」
と云って童はかえって行った。
 やがてとりつぎをした女は皆の前に出て丁寧に手をつかえたままでやさしいこえを出して、
「只今紫の君さまのところから御人でございまして斯う御言つけがございました。
 御まねきはまことに有難く、とんでもよりたい心でございますがあやにく少々気分が悪いのでふせっておりますし又ほんの少しではございますが熱が有るようでございますからまことに何でございますが今は失礼致しますから。
斯う云う仰《おおせ》でございました」
と云って首を上げるのを見るとさっき光君の時障子をあけた女で有る。立とうとすると物ずきな兄君は、
「どうもごくろう、よくわかりました。さて御前は大層やさしい声を御もちだが、どこの御生れかな」
 わざとこえをかえてしかつめらしくきくと若い女はたまらなそうに笑いこけ
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