心な世間知らずの心には、このとりすましたような女の口ぶりや姿がそのみにくいよりもいやでたまらないのでその本性をあらわしてくるりとうしろむきになって半分ねそべったような形してよっぽど古い、所々虫のくったあとの有る本をよんで居る。
女は、
「御ねむりあそばしたの。御気にさわりましたらどうぞね」
こんなことを云って兄君と又しきりにはなし出す。
そのはなしのところどころにきこえる、
「紫の君」
と云うのに妙に気をひかれて目は本の上に有りながら心はそっぷ[#「ぷ」に「(ママ)」の注記]にとんで居る。話はなんでも紫の君の噂にきまって居る、どんなことを云うかしら、又どんな噂をされるほどの人かと光君の心はあてどもないことにおどる。
「ホホホホ、もう御やめあそばせ。実の親よりあの方のことを案じていらっしゃるかたが有るって云うはなしでございますよ」
「ほんとうに、うっかりして居ましたね。壁に耳有り障子に目あり、油断のならない世の中だのにネハハハハ。でもいいじゃあありませんか、別に悪口を云ったわけではなし、只まるで石か木のような人だと云ったばかりですものネ、そんなにうらまれもしますまいよ」
光君は急
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