うなことを思って居た。まるであくどいにしき絵をおしつけて見せられる様な心持でたまらなくむねが悪くなる。早く紫の君のあのかがやく様な姿が見えれば好いのにとはだれでもが思って居ることで有った。
「紫の君はどうしたんでしょうね。貴方は存じない?」
 母上が口をきった。光君は千万の味方を得たようにその方を向いた。
「どうしたんでございましょうね、あんまり御またせ申して居りますこと。ほんとに持って居る自分のねうちよりもよく見せようと思うには仲々手間の入ることでございましょうから」
 常盤の君は自分の妹の美くしさをねたんでこんなことを云う。
「それでもやっぱり女なんて云うものは、出来るだけみにくいところはかくした方がよいと思われますネー。どんなにかくしてもかくしきれないほどみにくい人はそりゃ別としてね」
 自分の思ってる人をごとごと云われた口惜しさに光君はこんなぶっつけたようなことを云った、女君は自分のことを云われたときがついて一寸むっとしたが又いやな笑がおにかえって、
「何だか私の御蔵に火がつきそうになりましたワホホホホホ」
 とっつけ笑いをしてこんなことを云った。
 光君の、どっちかと云えば幼
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