は達[#「達」に「(ママ)」の注記]手にこんなことをしゃべって笑い興じて居たけれ共二人とも別に何とも云いかえしてもくれず只柳のようにうけながして居るので張合がぬけて二人のわきにぴったりとすわりながら同じように美くしい形容をもちながらまるであべこべの心地をもって居る自分達二人の身の上を思って居た。
そこへそとからやさしい声で、
「ごめん下さいませ」
と云って入って来たのは声に似げない姿をした常盤の君で有る。
なさけないほど肉つきの好いかおに泥水のようなほほ笑みをいっぱいにたたえて片ひざをつきながら、
「只今はどうも、わざわざ恐れ入りましてす」
声は前にかわらずやさしいけれ共「その様子では可愛いどころか一寸好いなんかと思う人が有ったら天地がさかさになってしまうだろう」兄君はその美くしい眼にかるい冷笑をうかべながらこんな人のわるいことを思って居た。
常盤の君はわきに居る人をはばかる様子もなく兄君ばかりを相手にしてしゃべっては高笑いして居る。「人もなげな様子をして居る人だ。人にすかれない人にかぎって斯うだから、世の中は不思議だ」まだ年若なくせに光君はもう年よったようにこんな世間なれたよ
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