れにむすびつけて居た。その中には、
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花散ればまぢりて飛びぬ我心 得も忘れ得ぬ君のかたへに
悲しめる心と目とをとぢながら なほうらがなし花の散る中
かなしめばかなしむまゝにくれて行く 春の日長のうらめしきかな
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などと細い筆でこまかい紙にかいては白銀のような針でつけて居る姿を女達は、「ほんとうにまるで絵のようです事」と云い合って居た。
 灯のついてから西の対の童が、
「貝合せをするからいらっしゃってはいかが兄君も二人の娘も見える筈です」
と云う文をもって来たので早速衣をととのえてよろこびに戦く心をおさえながら母君の部屋の明障子の外から、
「ごめん下さい私です」
と声をかけると声のやさしい女は細目にあけて黛を一寸のぞかせて、
「ようこそ、どうぞ御入りあそばして」
と云ってすぐ几帳を引いてしまった。
「よく来て下さったこと、今に兄君も常盤の君も紫の君も見えるでしょうからね」
とうれしそうに云いながら女に自分の几帳の中に方坐をもって来させてその上にすわらせて一年毎に美くしさのましてかがやかしくなって来る子のかおを見ながらいろいろのはなしの末こんな
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