た、だけどいろいろな事を云ったり笑ったりしちゃ私が困ると思って居たんだから」
と云ってよこを向いてしまう。女達は皆目を見合って急に荷散るように笑い出したら光君までまっかなかおをして笑い出してしまった。
「若様、大丈夫でございますよ、そんなこと」
と云ってまだオッホホホホと笑って居る。彼の年まは一番笑いこけながら、
「ネーやっぱり私が目が有ったでございましょう、でもよく今までもちこたえて居らっしゃったこと」
なんかと云ってひやかして居た。光君は気が狂ったように笑ったりふさぎ込んだりして夜を明してしまった。
 翌日はまた春に有りがちなしとしと雨が銀線を匂やかな黒土の上におちて居た。落ちた桜の花弁はその雨にポタポタとよごされて居る。
 光君は椽に坐って肩まで髪をたれた童達が着物のよごれるのを忘れてこまかい雨の中を散った花びらをひろっては並べならべてはひろって細い絹の五色の糸でこれをつないで環をつくって首にかけたり、かざして見たりして居るのを何も彼も忘れたように見とれて居た。気のきいた子が一番念入りに作ってあげた環を光君は、はなされないように自分の前にならべて置いていろいろのことを書きつけてそ
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