をねむったまま動かなかった。
「このままにして置いて御呉れ、一寸でもの水をさわがせない様にネ……」
殿はまわりのしずけさをやぶってわきに居る男に云いつけた。
いつまで立ちつくしても思いはつきないと云うように人達は立ちつくして居る。
「もういったらいいでしょう、きりがないから」
去りがたい思いをしのびながら殿は云った。
ことばに二人たち三人立ちして、たいていの人は家に入ったが、紅はまだ坐って居た。殿はこの様子をいぶかって、
「紅は大変かなしんで居て、御らん、あんなにして居る。私はもう去らなければならないけれ共、あとが少し気がかりで居るからものかげから見て居て御呉れ」
わきに居るまだ若い男に云いつけて、しずかに池の方に会しゃくをして家の中に入った。
だまって坐って居た紅は足元もあやういように立ち上った。
「ああなんでももうおしまいになってしまった、……私の望も、よろこびも、たのしみも、命までも……」
しずかにかげのようにあるき出した。物かげの男は池に身を投げはしまいかとそればかりを気にして一足うごくごとに自身も一足ずつうごいて居る。やがて足元を定めて紅はキチンとしまったかおを
前へ
次へ
全109ページ中102ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング