を、ここでも今日は砂塵が、硝子を曇らして舞い過ぎた。ダーリヤは自分独りの時は石油ストウブを燃《た》かないことにしていた。それ故室内は暖かではない。然し、決して居心地悪い場所とは云えなかった。窓には白地に花模様の金巾《カナキン》のカーテンが懸っていた。一畳ばかりの勝手を区切る戸の硝子は赤い木綿糸でロシア式刺繍をした覆いがかかっているし、二階から上って来る、ジェルテルスキー家の入口である襖の左右にも、アーチのように、海老茶色に白でダリヤの花の模様あるメリンス布が垂れ下っていた。柱にかけた鏡の上に飾ってあるバラの造花、ビール箱を四つ並べた寝台の頭上の長押《なげし》に、遠慮深くのせられてある三寸ばかりのキリストの肖像。――それ等は、悠くり、隅から隅へ歩いているダーリヤのやや田舎風な、にくげない全体とよく調和していた。レオニード・グレゴリウィッチはひどく背が高い。ダーリヤも二寸位しか低くなかった。そして同じように、余り艶のない金髪である。
――二十度近くも室内散歩を繰返えすと、ダーリヤは、窓の前の卓子へ戻った。その辺の畳へ、細かい羅紗の裁ち屑が沢山散らばっていた。彼女はさっきまで子供外套の裁断
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