「リョーニャ、月曜日に行けたらエーゴル・マクシモヴィッチのところへ行ってらっしゃいよ、ね?」

        七

 ジェルテルスキーの二階から、ギターとマンドリンの合奏が聞えている。マリーナは、寝台の上で膝に肱をつきその手で頭を支えながら、陰気にマンドリンを弾くエーゴル・マクシモヴィッチを眺めていた。卓子は室の中央へ引出されて、上にパンや、腸詰、イクラを盛った皿が出ていた。底にぽっちり葡萄酒の入っている醤油の一升瓶がじかに傍の畳へ置いてある。ルイコフが、彼のマンドリンと一緒に下げて来たものだ。ルイコフとマリーナはさっき大論判をしたところであった。栗色の髪の薄禿げた、キーキー声を出すエーゴルは、ジェルテルスキーの言葉で、妻を迎えに来たのであった。
「レオニード・グレゴリウィッチにもお気の毒だから、一先ずお帰り、――これこの通り、騙《だま》しゃしない、半分だけ兎に角かえして置くから」
 エーゴルはジェルテルスキー夫婦の前で卓子の端から端へ十円札を十五枚並べた。
「いやです、あんたのてですよ、誰がだまされるもんか、これだけで、あと半分はふいにしようと云うんです」
「返す、きっと来月中
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