。封筒は桃色で四つ葉のクローヴァの模様が緑色で浮き出している。ジェルテルスキーはその模様を指した。ステパンは髭面を動かして頷《うなず》く。……中に、ステパンの会話の力で判断してだろう、片仮名で、
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「オナツカシキペテロフサマ、
ソノゴオカワリモアリマセンカ、ユウベ、マテイタノニキテクダサイマセン、ナゼデスカ、シドイシト、ワタシノココロモシラナイデ。アナタ、ホントニアタシガカワイイナラ、コノテガミツキシダイ、ヨルノ七時マデニ、イツモノトコロヘキテチョウダイ、キット、キットヨ、デワ サヨナラ
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    コイシキコイシキ
[#地から6字上げ]ペテロフサマ シブヤにて
[#地から2字上げ]アナタノトヨ子※[#より、1−2−25]」
 それは、いかにも滅多に手紙など書く必要のない女の字であった。それも長いことかかってひどい万年筆で書いたと見え、桃色の、やはり四つ葉のクローヴァのついた書簡箋が、ところどころ皺になってさえいる。ジェルテルスキーの読む間、心配を面に表わして待っていたステパンは、愈々《いよいよ》一字一字意味を説明されると、見るも気の毒なほど
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