ーリヤは、ゆるやかな紅がちな縞の部屋着姿で、卓子にゆったり両肱をのせ二杯目の茶を啜《すす》っている。コップを持ち上げる毎に、寛い紅い袖がずって深く白い腕が見えた。彼女の部屋着はもう着くずされている。それが却って可愛ゆく、覆われている肉体の若々しい艶を引きたてるようであった。――レオニード・グレゴリウィッチは、愛情をこめ、素早く妻を目がけ接吻を送った。ダーリヤは、さっと肌理《きめ》のこまかい頸筋を赧らめた。夫を睨んだ。が、娘っぽい、悪戯《いたずら》らしい頬笑みが、細い、生真面目な唇にひろがった。――マリーナは、彼女の顔の前にまだ新聞をひろげている。
皆が飲み終る頃、二階じゅうを揺り動かして、羅紗売りのステパン・ステパノヴィッチが、巨大な、髭むしゃ顔を現わした。
それを見るといきなり、マリーナ・イワーノヴナが飛びかかるように、
「いかがです、貴下の五十三人目の恋人の御機嫌は」
と云って笑い出した。
「いや、どうも――マダム。――いつも貴女のお口は鋭い」
ステパン・ステパノヴィッチは、先ずダーリヤの手を執ってその甲に恭々《うやうや》しく接吻し、次いでマリーナにも同じ挨拶をした。
彼は
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