ナにたよって暮していられるんだもの。私なんぞ惨《みじ》めなものだ、仕事がなくなって御覧なさい、どうして生きられて?」
「だって――貴女お金持じゃありませんか」
何心なく云ったダーリヤの言葉は、思いがけない反響を呼び起した。マリーナは、
「ね、後生《ごしょう》だからダーシェンカ」
心臓でも搾《しぼ》られるように云って、ダーリヤの手頸を捕え、自分の胸に押しつけた。
「どうか私がただの吝嗇坊《しわんぼう》で、お金のことをやかましく云うのだと見下ないで下さいね? 私あなたがたが黙ってても心でさぞ賤《いや》しい女だと思っているだろうと思うととても辛いの。ね! ダーシェンカ、親切なダーシェンカ、あなただけは私を分ってくれるでしょう?」
ダーリヤは唐突真情を吐露された間の悪さと一緒に少なからず心を動かされた。
「それは、マリーナ、あなたにはあなたの十字架があるのはお察ししています」
マリーナは嬉しそうにダーリヤを見て合点合点をした。
「本当にそうよ、十字架!――ね、ダーシェンカ、あなたにはまだまだ私位の年になった女がどんな恐しい心持で将来を見るか想像も出来やしないわ。保護して呉れる国もない、
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