様子を御覧」
 その叫びで、十三の痩せて雀斑《そばかす》だらけのアーニャは、生え際まで赧くなった。彼女は憤ったように垂髪《おさげ》を背中の方へ振りさばいて、叔母を睨んだ。彼女は、リボンのかわりに叔母の裁ち屑箱から細い紫繻子《サテン》の布端《きれはし》を見つけ出した。彼女はそれを帽子を買って貰えない栗色の垂髪の先に蝶々に結び、道々も掌《て》の上で弾ませながら歩いてきたのであった。
「とんだお嬢さんだね、ハハハハハ貴女の親切な叔父さんが似合うと仰云いましたか?」
 例によって、入口が開くと同時に顔を出したうめが、階子のかげから異常な注意をあつめて、この光景を観ていた。アーニャの色艶のない小さい顔が泣きそうに赧くなる。元通りそれが白くなる。やがて、片脚をひょこりと後に引く辞儀をして土間から出て行く迄、うめは動物的な好奇心とぼんやりした敵意とを感じながら見守った。
「どうでした?」
 マリーナは答えのかわりに、両腕を開いて見せた。当にしていた注文が流れたのであった。彼女は、元の椅子にかけた。が、
「あああ」大きな吐息をついた。
「あんたなんぞ本当に仕合せだわ、ねえ、ダーシェンカ、ちゃんとリョー
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