決定と自らの意志でそれを体験して行く丈の力が有るかどうかと云う事なのである。
この様な時大抵の場合には、何時か知らないうちに、過去が甦って来る。人として生活経験に薄弱な過去ほか有しない彼女は、今日も尚、人生の諸相に対して無智と不明とを持っていて、その問題を混乱させるだろう。面倒に成って来た人及び我を見るとひとりでに彼女は怖気《おじけ》付く。決して、今日根を絶してはいない「自分は女だ」と云う自意識が心を掠めた瞬間に、もう云うに云われない妥協が自分に向って付けられてしまう。自分の真正な判断に委せれば、それは理論では正しいかも知れない。然し今まで平穏に自分の囲を取捲いていた生活の調子は崩れてしまうだろう、自分はまるで未知未見な生活に身を投じて、辛い辛い思いで自分を支えて行かなければならない――ここで、人として独立の自信を持ち得ない、持つ丈の実力を欠いている彼女は、何処かに遺っている過去の、殆ど習性にさえ成った日蔭の依頼主義の底力に押されて、非常に微細に、非常に滑っこく、自分の現状と外界の社会的事情との間に、何か連続をつけて、自己を不平のままに肯定しようとする。
或る場合には、総てを社会的
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