概念と心其もの
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)頭で丈《だけ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)持[#「持」に「ママ」の注記]つならば
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          一

 最近自分の生活の上に起った重大な変動は、種々な点で自分の経験を深めて呉れたと同時に、心に触れる対象の範囲をも亦広めて呉れた。今までは或る知識として、頭で丈《だけ》解っていた生活の内容が、多少なりとも体験された。自分の箇性の傾向から必然に成って来た或る運命に真正面から打ち当って見ると、又、全心全身でぶつかって行かずには済まされないような大きな力を感じて見ると、好い加減と云うに近い諸々の概念は、皆真実の熱火に焼き尽されてしまう。
 自分の生活や、人々の生活を外から直接間接に圧包み、何等かの変型やこじつけを強いていた物が無く成ると、始めてその奥に在った箇々が現われて来る。一つとして同じものの無い箇々の生活が、ありの儘の色彩と傾向とで姿を現わすのである。
 今日我々の理性はたとい如何に所謂《いわゆる》実生活に対する自己の体験が貧弱でも、人類の箇性の存在
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