ある。
確《しっ》かりと自分の足で、この大地を踏まえて行く生活! 今まで項垂《うなだ》れて、唖のような意趣に唇を噛んでいた女性は、彼女の頭を持ち上げた。深く息を吸い、力を込めて、新しい生活を創始しようとする渇仰は、あらゆる今日の女性の胸を貫いて流れているのである。刻々と推移して行く時は、生活の様式に種々の変動を与えて来ただろう。社会組織の一部は、女性を人として生活させる為に変更されようとしている。
けれども、現代の一般社会には、女性の人としての生活、人としての発展を心から肯定し助力しようとする傾向と並んで、因襲的な過去の亡霊にしがみ付いて、飽までも女性を昔ながらの「女」にして置こうとする傾向とがあるように、女性の心そのものの裡にも、何か捨て切れない過去の残滓が遺っているのではないだろうか。
奴隷制度が、制度として社会規約から除かれた事丈で、万事が無かった時の状態に属せるものだとしたら、人間の心は単純である。私は、今日女性の心の中には、新たに目覚めた人としての燃えるような意図と共に、過去数百年の長い長い間、総ての生活を受動的、隷属的に営んで、人及び自分の運命に対しては、何等能動的な
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