んな遠いところへつれてっていただきましたが、東海道は始めてでございますから――こんな結構なところ拝見させていただきまして」
 佐和子は、それをきき、みわ[#「みわ」に傍点]や両親が憐れになった。みわ[#「みわ」に傍点]は十七位のとき、まだ赤坊であった佐和子の世話をして、これもまだ若夫婦であった両親と任地の北海道まで行った。三十年位の歳月は一方に別荘を作らせたが、みわ[#「みわ」に傍点]には額の皺とただ一枚の白い前掛を遺したに過ぎぬように感じられた。しかもみわ[#「みわ」に傍点]は、もっと若々しく、貧乏であったが健康で怒ることの尠い妻だった母を見て来たのだと思うと、佐和子は森《しん》とした寂しい心になった。
 父が、手袋のごみをはたきながら戻って来た。
「どうも仕様がない。×へ電話かけさせよう」
 ――母は黙っていた。父は、大半白い髭をいじりつつ、背をかがめ暖炉の火をかき立てた。

 二月の海浜は、まして避寒地として有名でもない外海の浜はさびれていた。佐和子は、妹と並んで防波堤兼網乾し場の高いコンクリートのかげで、日向ぼっこをしていた。正月に、漁師たちが大焚火でもしてあたりながら食べたの
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