だろう、蜜柑《みかん》の皮が乾《ひ》からびて沢山一ところに散らかっているのが砂の上に見えた。砂とコンクリートのぬくもりが着物を徹していい心持にしみとおして来る。
「いい気持!」
「お母ちゃまもいらっしゃればいいのにねえ」
「……お迎えに行こうか」
「駄目駄目! どうせいらっしゃりはしないわよ、寒いって」
ピーユ。ピーユ。口笛が聞えた。
「あら」
「呼んでらっしゃる」
二人は急いで風よけの蔭からかけ出した。
「ピーユ」
「ここよ、ここよ」
浜へ下りる篠笹の茂みのところに父の姿が見えた。
「こっちにいらっしゃーい!」
佐和子は大きく手を振っておいでおいでをした。風が袂をふき飛ばした。晴子も手を振った。が、父は動かず、却ってこっちに来い、来い、と合図している。佐和子と晴子は手をひき合い、かけ声をかけて砂丘をのぼって行った。
「何御用」
「Kへ行きませんか」
「行ってもよくてよ」
Kは九八丁|距《へだ》たった昔からの宿《しゅく》であった。
「電報を打たなけりゃならないから」
「じゃちょうどいいわ」
晴子が勢こんで手を叩いた。
「お姉ちゃま、晩の御馳走買って来ない?」
「よし! じゃ
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