する娘の独特な心持で両親の生活を思い、
「まあそう癇癪をお起しなさらない方がいいわ」
となだめた。
「父様だってああやって一生懸命やっていらっしゃるんだから――この次までに一馬力のにさせとけばいいじゃあないの」
 発動機が動きだしたと見え、コットン、コットン水を吸い上げる音が聞えて来た。二三分して、再び止ってしまった。もう動かないらしい。扉をあけ、父がやめて来たかと思ったら、それはみわ[#「みわ」に傍点]であった。
「まあ旦那様本当に恐れ入りますでございますね、お寒いのにあんなお働きいただきましては……」
「駄目かい?」
「はあ――どうしたんでございましょう。一寸動きましてやれうれしやと存じましたら、またとまってしまいまして」
 みわ[#「みわ」に傍点]は、そう言いながら煎じ薬を茶碗についで母にすすめた。
「なに、御自分がわるいのさ――お前にはとんだお気の毒だね、こんなとこまで来て水汲みまでさせちゃ」
 みわ[#「みわ」に傍点]は、小作りな女で何だか見当が違っているような眼つきであった。
「まあとんでもございません。ちょこちょこと致せば何のこともありは致しません。――私も北海道なぞとあ
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