時のような晴がましい亢奮を感じさせた。フランツが、同じときに信徒名を授けられた少年と一緒に、初めて聖歌合唱をすることになったのであった。
定りの礼拝と祈祷とがすみ、教父がきらびやかな法服の裾を引いて聖壇の前の椅子につくと、ルイザは、我知らず胸に下げた数珠を握りしめて正面を見つめた。静々と聖壇の右側の扉が開けられた。純白の寛上衣をつけ、片手に譜本を持った赭毛の男の児が真先に現れた。会衆のざわめきも他処に一人一人出て来る順に手繰り込むように目の前をやり過しながら、ルイザはフランツの姿を待った。
彼は、四番目に現れた。真面目な顔つきで、自分の場所に立つと傍見もしない。あと二人のルイザに誰か分らない男の子が続いた。
皆は一列に並んだ。一声、長い、引くようなオルガンの音が響き渡った。四辺が水を打ったように鎮りかえった。歌い手達は、一斉に両手の間に譜を拡げた。期待に満ちた、静寂を破ってオルガンは、徐《おもむ》ろに荘重な四重音で一小節、歌の始りを前奏した。息をため、心をこめて六人の少年歌手は「ナザレのふせやに」という文句で始る信徒生涯の聖歌を歌い出した。
ルイザは、子供のときから幾度も聴いた
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