り何故か黒い捲毛と黒い眼をしているからだと、はっきり分ったのであった。

 全く、フランツは、ひとによく目をつけられる児になった。
 村には彼のほかに沢山、黒毛で黒い眼をした男の児がいる。それだのに誰もそれ等の児には目をとめない。村の者でも、町から用事に来た者でも、フランツ・ヨーストの小さい顔を見ると、この世で初めて髪や眼の黒い子供に出逢ったように長い間じっと彼を視た。
 ルイザが一番気にしたのは、そんなにしげしげ眺めながら、彼等が一人として普通ごく自然にするように「ほほう、好い子だ」とか「これは可愛い」とか暖い、彼女もよろこぶ感歎の言葉を洩さないことであった。ルイザが見ていると、或る者は、殆んど、驚くべきものを道傍で発見でもしたように、眼を瞠《みは》り立ち止って、無心なフランツを熟視した。けれども、傍の時計屋の入口で手を腰に当てて厳しい顔で此方を見張っている彼女が母親だと判ると、俄にわざとらしく空咳をしたり髭をしごいたりして、歩き始める。
 フランツが自分に解らない理由で、理解出来ない注目の焦点になるのを見ると、ルイザは何ともいえず不安に居心地わるく感じた。
 追々片言を喋るフランツ
前へ 次へ
全23ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング