いなしの伊太利亜絹レースであった。それを褒められるのは嬉しかった。彼女が嫁入りに母親から貰った唯一の本当に立派なものだったから。けれども、この人は、また何という妙なほめようをするのだろう。
 焦々した思いがつき上げて来た。ルイザは、フランツの顔を見たまま、はっきり呟いた。
「何てお前はお祖父さん似なのだろう。私の子でないと思われるよ」
 然し、云ったあと、猶、ルイザの心持は悪くなった。鐘が鳴り渡って、ルイザも定りの腰架についたが、彼女には、自分達の捧げた二本の大蝋燭がちっとも他の蝋燭と違わない色や形で聖十字架の前に燃えているのが、ひどく物足りなかった。焔が美しく揺れる度ごとに「フランツのために」とでも、高らかに歌いながら輝いてくれれば好いのに!
 ハンスは、ルイザの心持は知らず満足して、大股に悠《ゆっ》くり教会から歩いた。家へ妻と嬰児を送りとどけると、盛装のまま、また出て行った。
 独りになると、ルイザはためていた涙をぽたぽた膝の上に落した。そして、頭を振った。彼女には、今日自分が経験したいやな思いは何でもない、ただ、自分等夫婦とも、髪は金色で碧い眼を持っているのに、生れたフランツばか
前へ 次へ
全23ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング