上からレースをどけて顔全体がよく見えるようにした。
カールは、大儀そうに腰をかがめ、キ、キ、キ、と舌を巻きあげながら、年寄らしい愛嬌をふり撒いた。
「ふむ、なかなかよい児だ。男になれよ」
が、彼はふと訝しそうに眼をルイザの顔に移した。ルイザは彼が何か云うのかと思った。ところが、仕立屋はそのまままたさりげなく嬰児を覗き込んだが、今度はほんのお義理で、ちょいちょいとフランツの頬を突つくと、さっさと、一言の挨拶もなく男達の群に戻って行ってしまった。
ルイザは、鋭い痛みが、胸の真中を刺しとおしたように感じた。
何という変な爺さんなのだろう。
程なく、ルイザの囲りは新たに賑やかになって来た。
彼女のまわりでは、女達の白い大頭巾が彼方此方に揺れ、絶間ない話し声が漣《さざなみ》のように拡った。そのうち誰か一人が、後を振向いて一寸傍によった。その前に喋っていた女は言葉を切ってその方を見、途をあけた。ルイザが縫物を習ったことのある配便局の細君が、まるで町風に派手な帽子をつけ、踵の高い靴を耀かせてやって来たのであった。
郵便局の細君は、ルイザに近よりきらないうちから誰よりも大きな声で話し出し
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