りた。彼女には、仕立屋のカールが、不意とフランツをあやすのをやめた、そのやめかたが気になっていた。郵便局の細君が、フランツのくるまっているレースをことさらに褒《ほ》めた。その褒めかたがルイザの心持を曇らせたのであった。
彼等が、小ざっぱりとした安息日の盛装で教会の広場に現われると、真先に見つけて近づいて来たのは仕立屋のカールであった。
彼は、のしのしと大股に近づいて来た。そして腕を振り廻してハンスと握手した。
「どうだね」
彼は、酒肥りのした厚い瞼の間から、じろりとルイザの抱いているものの方を見た。
「男かね、女かね」
ハンスは、口のまわりに微かにばつの悪そうな表情を浮べながら低く答えた。
「男の子だ。――親父の名を貰ってやったさ」
「ほう! 男とはうまいことをやりおった。せっせと金箱を重くしても、娘っ子に攫《さら》われちゃあ始らないからな」
仕立屋のカールは、ルイザの方へやって来た。ルイザは初めての児を褒められた嬉しさに、自分の方から膝をかがめて挨拶した。
「どれどれ、一寸のぞかせて下さい。儂《わし》でもこれで三人孫をあやして呼吸は知っているよ」
ルイザは、フランツの額の
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