あった。
これ等の、内へ内へと、自分の憧れや、楽しさを追い込まれる寥《さび》しさが、全く、不思議な自分の顔立ちの故だとはっきり解ったのは彼が十五の時であった。
その年の秋、例年通り、村長の持ち山で、胡桃《くるみ》もぎの年中行事があった。
フランツもその年から村の若者の仲間入りが出来る筈であった。彼は、白絹の晴着の襯衣《シャツ》をつけ、父親の他処行を直した天鵞絨《ビロード》の半|洋袴《ズボン》をはいて、隣りのエルンストと出かけた。山には荷車に載って行った小綺麗な身なりの娘の一隊が待っていた。
村長が振りまわす杖の先で、笑ったり犇《ひし》めいたりしながら、若者達と娘等は入り混って幾組もに分れた。
娘達は、皆手にリボンで飾ったいろいろの形の籠を下げた。男どもは、先に鈎のついている長い枝下げ棒をかついだ。フランツは、二人の小っぽけな娘と組になった。
二人とも同じように薄赭い少い髪を編み下げにし、狭い胸に黒天鵞絨の胸衣《ボディース》をつけている。始りは少し間がわるかった。けれども、片方の、雀斑《そばかす》のある娘が、
「あら! お前さんのズボンもビロード?」
と叫んでから、すっかり極
前へ
次へ
全23ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング