父親に怒って貰いたかっただろう。彼はしんから父に気の毒に思ったので、出来るなら頬の一つも打って欲しかった。勿論泣くだろう。けれども、父親が、彼にさえ感じられた努力で癇癪を抑えるのを見るよりは、ずっと後がからりとしたに違いないのだ。けれども、父は、他処の父親が息子を怒りつけるようには怒らなかった。それがフランツに、寂しさを与えた。
 母親についても、彼の感じは同じであった。他の村人や学校の教師についてさえも。
 フランツは、何故か、自分は悪戯《いたずら》やその他同じ年頃の少年のする馬鹿なことは、決してしないものと傍からちゃんと定められているような窮屈さを感じた。
 たまに何かやると、人々は真面目に、大人に対してのように言葉|寡《すくな》く愕きを示した。そして彼から、弁解や活溌な口応えや、止められたことをまたする冒険の面白さを殺《そ》いでしまった。
 彼は、何とも知れず厳かな雰囲気が、到るところ自分の行く先について廻るのを知った。彼の少年らしく野放しな陽気さをのぞむ心持、腕白小僧のように遠慮なく大人とふざけ廻って見たい気持は、皆、そういう彼の力ではどうしようもない何物かで阻まれてしまうので
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