りわるさがとれた。フランツは、元気よく二人をつれて樹の間に分け入った。
 彼方此方から、楽しそうな笑い声や、陽気な合唱、木の枝のざわざわいう音が響いて来た。
 組と組とが、ひょっくり樹の陰から出会いでもすると、両方でどっと悦びの声をあげた。娘達は籠を覗き合う。或る者が入れ換る。傍では手を叩いて笑い囃す。ぱたぱた馳ける跫音。その秋の一日は非常に麗かであった。
 小さい娘達とフランツも工合よくやって行った。
 彼は、どっさり果《み》のついている枝を見つけては、低く低く、いつまででも娘達のもぎきるまで曲げていてやった。娘共はずるく牒し合わせ、わざとのろのろ暇をかける。フランツが手を怠《だる》くして枝を離すと、彼が余り早く手離したと云って怒った。怒りながらふきだした。
 虫食いの不具な果でもつかむと、彼女達は、
「いやなフランツ! 虫っくい」
と、彼にその果をぶっつけた。
 はははは。もっとぶっつけろ、もいだ胡桃をみんなぶっつけろ! フランツは樹に登るぞ。彼は登った。乾いて好い匂いのする葉の間へ本当に隠れた。そして、ばらばら枯れ葉をお下髪《さげ》の頭にふるい落す。
 が、またいつの間にかするす
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