を正面から聖壇の大蝋燭が照していた。小揺ぎもしない金色の輝の環の中で、彼の黒い、精神の燃えたかまった二つの眼、清い唇、純白の寛衣と黒い捲毛とは、この世のものでなく見えた。ルイザが「聖母まりーあ、ああ御母まりーあ」とくずおれてしまったほど、その顔だちと姿とは絵の少年基督に生きうつしなのであった。
ルイザは、震えながら、幾度も幾度も十字を切った。
「ああお恵み深い聖母、こんなことがあってよろしいものでしょうか。私の眼は今まで何を見ておりましたのでしょう」
彼女は、始めてフランツが人目を牽いた訳を知った。誰が、お前の子はイエス様にそっくりだなどと、造作なく云えたものか。彌撒が終ると、フランツは、合唱仲間と村長の家へ廻ることになっていた。
ルイザは、ハンスの腕をかたく握って会堂を出た。空は寒く深く晴れ上って、星が大きく燦いていた。往来の左右にははきよせた四五日前の雪があった。家々の窓から洩れる灯かげを横切って、時々黒く人通りがある。
暫く歩くと、路は広い空地にかかった。ルイザは、ぐっとハンスの腕を引いて、彼の耳を自分の口に近く下げさせた。そして、なおよく前後を見廻した後、始めてわかった
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