生活難で萎縮し切った講義をやるし、学生は学生で、浮腰だし……(それとなく室内を見廻す)
英一 おまけに君は、中で一等の遊動体だろう(笑う)――それにしても、随分会いませんでしたね。あの音楽会は、何でも正月頃だったでしょう?
みさ子 もうそうなること? ミス・ペブロスカの時だったわね、あれは――
英一 ざっともう半年だ。あなたの方にこそ、興味津々たる話があるでしょう?
みさ子 (笑わず)そう見えて?
英一 (稍《やや》てれ)詰問されても困るけれど……(苦笑)相変らずですね。
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きよ、茶菓を運んで来る。皆黙っている間に、配り終り、静に退場。沈黙を破り、
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谷 (みさ子に)奥平さんは? お変りなしですか?
みさ子 ええ有難う。相変らずよ、表ばかり拵えているわ。
谷 はは、表ばかり! か。――(さりげなく)ほかにお客様はなしですか?
みさ子 なし。ある筈だったんだけれども――
英一 (急に大笑いをする)ははははは。三郎、到頭兜を脱いだな?
谷 ――(知らぬ振り)
みさ子 いやね、いきなり。どうなさったの?
英一 何ね。(谷を顧み)いいだろう?
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