(ひとりでに、活々とし)まあ、よくいらしったわね。今日は。
英一 今日は。
みさ子 先ほどは、お電話をありがとう。
英一 どう致しまして。
谷  実はね。あの電話は、僕がせっついて掛けさせたんですよ。たまに上るのに留守をくわされては堪りませんからね。
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谷、英一、各々ほどよい処に自分で席を定める。
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みさ子 (縫取を片づけながら)そうだったの? 大丈夫よ。私共が二人で留守をすることなんか、一年に、ほんの数えるほかありはしないわ。
英一 然し、何にしろ、素晴らしい天気だからな――戸外《そと》は、なかなか暑いですよ。――一寸そこをあけてようござんすか?
みさ子 ああ、どうぞ。ほんとにね、ずくんでいるもんだから……
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英一、フォールディング・ドーアの一方を開く。
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みさ子 (其方に顔を向け)ああ好いこと。まるで夏のようね。
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英一、席に戻る。
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みさ子 この頃はいかが(笑顔で二人に)相変らず?
谷  別に目醒ましいほどのこともありませんね。教師は教師で、
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