の花のついた方ね。
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きよ、軽く会釈して行きかける。
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みさ子 あ、きよや、旦那様は何をしていらっしゃるの?
きよ (立止り)さあ……先ほど、御書斎の方においで遊しましたが……
みさ子 それならいいのよ。有難う。
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きよ、去る。
みさ子、卓子の上の小籠から、白い、センター・ピースを出し、ぽつぽつ縫取を始める。けれども、心は落付かず、折々凝っと、細い指に嵌《はま》った結婚指環を眺めたり、我と我心をなだめるように、髪を撫であげたりする。感じは内に満ち、満ち、而も、表すに途のない素振り。ほどなく、垂帳の裏から、
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きよの声 奥様?
みさ子 (頭を押えていた手を落し)なに?
きよ (部屋に姿を現し)橋詰様がいらっしゃいました。
みさ子 おひとり?
きよ いいえ、あの……
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云い切らないうちに、足音。若い男の声。
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谷 僕も一緒ですよ。
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谷三郎、橋詰英一、連立って快活に現れる。
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谷 やあ! 今日は。
みさ子
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