め、元気を失い、詰らなそうに、ぐったりと傍の長椅子にかける。
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みさ子 (ひそやかに、独白)ああ、どうして、ああなんだろう……?
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長椅子の端に肱をつき、凝っと前を見つめ考えに耽る。やがて、寂しさに堪えられないらしく、急に立上り、書棚の傍のベルを押す。きよ登場。
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きよ お呼びでございますか?
みさ子 ああ、あのね、私の部屋へ行って、やりかけのスティッチを持って来て頂戴な。
きよ はい。(去る)
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みさ子所在なさそうにヌックの方に行き、腰を下して、花壺の花をいじる。寧ろ、心は内へ内へと沈み、指先だけが無意識に微かな運動をするという風。
きよ、愛らしい紅色の繻子張小籠を持って来る。
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きよ これでよろしゅうございますか?
みさ子 有難う――鋏があったかしら(籠の中を一寸検べる)ああ、これでいいわ。それからね、お客様がいらしったら、直ぐこちらへお通しして頂戴。私ここにいるから――
きよ はい――。先ほどのお菓子は、いつものお皿でよろしゅうございますか?
みさ子 ああいいわ、あ
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