振一郎 いつ? 今日?
みさ子 (勿論と云うように)そうだわ。
振一郎 判らない。まああなただけで接待していてくれ。
みさ子 ――それじゃあ同じだわ……ああほんとに(椅子を立ち、歩き出しながら嘆息する)
振一郎 (気にし)どうしたの?
みさ子 (凝《じ》っと、憂わしげに良人を見る)私共の処でさえこうなんだから、よその奥さんが、自分のお友達さえ呼ばなくなるのは無理もないと思ったの。
振一郎 物事を、何でもそう悪意にとるものじゃあない。僕の云う真意を諒解しなければ、いつでも、詰らない衝突を起すばかりじゃあないか。
みさ子 (熱心に)ほんとに、私も私の心の奥の奥が判って頂きたいわ。理屈じゃあなく、私の感じることを、貴方の胸で感じて頂きたいわ。
振一郎 ――お互のことだ。……要求は限りないものだからね。人間は、五のものを与えられると、必ず七のものまで得ようとする。――
みさ子 ――
振一郎 とにかく、僕は失礼させて貰うから、皆さんによろしく。――勿論用があったら、いつでも来ていいんだからね。
[#ここから4字下げ]
来た垂帳の方から去ろうとする。みさ子、思わず後を追い、何か云おうとする。が、や
前へ
次へ
全37ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング