)ね、貴方、これからこうしようじゃないの? 貴方が来て貰っては困るとお思いになったら、はっきりそう云って頂くの。そして、私、断ってしまうわ。その方が……どんなに心持が好いか判らない……
振一郎 何もあなたの処へ来ようという人を、僕が厭だって断る訳はないじゃあないか、そんなエゴイストじゃあない。
みさ子 それが間違いだとはお思いにならない? 来る人は、私共二人[#「私共二人」に傍点]の処へ来るのよ。それだのに(涙が危くこぼれそうになる)いつも、私一人ぼっちでお相手をして、奥平さんはどうなさいましたって訊かれるの……おまけに貴方はちっとも楽しそうではないんですもの――私、どうしていいか判らなくなってしまうわ。
振一郎 判らないことはない。あなたは僕のことなんか忘れて、愉快にすればいいんだ。その方が、僕にとったって、どの位|呑気《のんき》だか判らない。
みさ子 (疑わしそうに、良人を見)そう? ほんとに?
振一郎 (力を入れ)ほんとにそうだとも! 若し僕が暇で気が向いたら、いつでも出て来て仲間に入ればいいでしょう?
みさ子 そうならほんとにいいわ。(嬉しそうに)じゃあ、後で出て下さること?
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