云っても――。
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谷、わざと煙草の環をふく。
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英一 昨日、或る友人の処へ行ったらね、吉沢のお嬢さんの噂が出てね、わあわあ云っていると、その男の妹が、あの方なら、あなたの親友だ。きっと今日あたり、奥平さんの処へいらしってよ、なんかと云ったものだから……
みさ子 まあ! それで来て下さったの? (谷の方を向き、わざとおどけ)どうも有難う。
谷 (笑いもせず)いや、どう致しまして!
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皆、笑い出す。
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谷 で、どうなったんです? 来ないんですか!
みさ子 ええ、おやめになったの、いつか静かに二人きりで話したいからって。――(真面目に)あの方も近頃は、結婚問題や何かで、随分苦しんでいらっしゃるのよ。余り美しい方だもんで、却って、種々いやなこともおありになるのね。
谷 それで、結婚生活では、少くとも半年の先輩であるあなたに、指導を仰ぎたいという訳ですか?
みさ子 (谷の一種の調子には頓着せず)黙って独りで考えているよりは、私にでも話して相談して見たいとお思いになるらしいの。無理もないわ。――お父
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