様だって、お母様だって、お金こそ沢山おありなさるけれど、随分変な方なんですもの……
英一 両親がそんなで、娘が評判の美人では、悲劇だね。
谷  我々が来るんじゃあ、しんみりしないからということになったんですね。
みさ子 まあ、そういうことね。――でも、(間)私、どうせ、御相談は受けても、それほど頼りになる決定なんか与えてあげられる処ではないと思っているわ。
英一 どうしてです?
谷  珍らしい弱音ですね。
みさ子 (二人を見)ほんとよ。却って、結婚しないうちの方が、頭でだけ考えて、明快に、善《よし》、悪《あし》でも云ったと思うわ。事実に入って見ると――難しいんですもの。まるで、概論じゃあ、行かないのよ。例えば、相手の人の人格とか教養とかいうことだってもね、それは勿論、何かの標準にはなるに違いないけれど、友達と良人とでは、何だか、まるで違うものが現れて来るのよ。――ね、そうお思いにならなくって?
英一 さあ――
谷  そこまで行くと、我々は未丁年ですね。
みさ子 (考えつつ)結婚生活では、普通、正しい人間とか、善い人とか云っている、もう一重底の蕊《しん》が現れるのじゃあないかしら。うまく
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