ニの愛が輝き出すか、詰らない石ころが転り出るかを、知るためにね。
みさ子 (絶望的な烈しさで)私二つの愛なんかありはしないわ。たった一つよ。(思い切って)奥平が可愛いだけだわ。あの人に可愛がって貰いたいだけだわ。
谷 だから、それほどの愛に報いられるためには。
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二人の会話をきき、歩き廻っていた英一、殆ど、顔色を変え、
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英一 谷! やめろ。まるでみさ子さんを苦しめているじゃあないか!
谷 (微かな亢奮を持ち)苦しめるのじゃあない。終局に於て、持っていられる感情を、一層純粋に生かすためだ。
英一 傍で聞いては、まるで誘惑しているとほか思えやしない!
谷 ――橋詰。君の態度は、失敬ながら、崇高じゃあないよ。他人を非難することは、何も自己の優越を表しはしない。――(英一を見守り)男一人の心、で当ったらいいじゃあないか。(独白的に)君のみさ子さんに対する友情[#「友情」に傍点]はよく判っているよ。
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英一、みさ子の方をちらりと見、あわてて何か云おうとする。みさ子、二人の会話はきかず、掌に顎をのせて考えている。この時、さ
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