烽フを、みんな空へ溶かしてしまうの……
谷 みさ子さん。歌えないでも、あなたの寂しさや悲しさが飛んで行ってしまう法を教えてあげましょうか。
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(英一、きっとして谷の方を見返る。谷、関せず。)
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みさ子 (自分の考えに沈んだまま、漠然と)何なの?
谷 奥平さんを、もっとあなたへ引つけて置くんです。心持の上でね。
英一 (嫉妬を感じるように)おい、詰らないことを干渉するなよ。みさ子さんだって――
谷 一人前の淑女だ、というのだろう? 決して失礼なことを云いやしないよ。僕だって一箇の人間だからね。(声を大きくし)ね、みさ子さん、あなたは自分の歓びも悲しみも、ただ奥平さんにだけ的を置いていらっしゃるでしょう?
みさ子 (単純に)そうよ。
谷 だから、奥平さんは、平気であなたを打っちゃって、青だの、赤だの1.2.3.ばかり書いていらっしゃるんです。
みさ子 だって――私は、奥平ほか――奥平だからこそ、一緒に楽しんでくれればほんとに嬉しいんだし、そうでなければ淋しいんだわ。ほかの人なんか――いくら私を放って置いたって平気よ。
谷 実にはっきり
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