、終る、沈黙。やがて、聴とれていたみさ子が、感動の溜息とともに頭を擡げる。
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みさ子 いいじゃあないの?
英一 何にしろ伊太利語は響がいいな。
みさ子 ほんとにいいわ。(詩句を暗誦する)
Caden stanche le foglie al suol, Bianche strisce serpon sul l'onda, ……
歌えたら、どんなにいいでしょう!
谷 稽古なさい。
みさ子 駄目よ、私の声は。――ね、だけれども、誰でも、時々、種々のことを感じて、感じて、もう歌でも歌わずにいられないようになることがあるでしょう?
そんな時、はあっと、すっかり自分の心持を歌いつくせたら、どんなにか嬉しいだろうと思うわ。私なんか、自分の感動を、まるで現わせないんですもの(だまろうとし、また、我知らず云いつづける)もとなんか、一寸悲しいことでも考えて、涙を一粒こぼせば、すっかり気分が変ってしまったけれども、この頃は――(独白的になる)だんだん、だんだん胸が一杯になって来るばかりですもの。歌いたいわ。ほんとに歌ったら好いと思うわ。歌って、すっかり私の悲しさや、寂しさや種々な
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