みさ子 奥平と交際させてくれたこと? 比較すれば、有難く思わなければいけない訳ですわね。だけれど――(苦笑)奥平もその時は、未婚者で、私の家に遊びに来て、まさか――数字ばかり書いてもいられなかったでしょう。
谷 はははは。然し、何ですね――(躊躇する)
みさ子 (無邪気に)なに?
谷 いや――
みさ子 ――(次第に亢奮が鎮る。先刻から自分と谷とばかり喋っていたのに心付き)まあ、随分ひどい御主人役ね、一人で喋り込んで。
[#ここから4字下げ]
(先ほどから、硝子扉の傍の椅子にかけ、独りでレコードを見ている英一に)
[#ここで字下げ終わり]
みさ子 どう? 何かお気に入りそうなのがあって?
英一 大分|殖《ふ》えましたね。
みさ子 シャリアピンやなにかのが来たからでしょう?
[#ここから4字下げ]
(立って、英一の処へ来る。英一椅子から立ち、みさ子を掛けさせる。余り浮かぬ顔。ヌックの方で、こちらに背を向け庭を見ている谷の方を一寸見、低声に)
[#ここで字下げ終わり]
英一 あれに、矢鱈《やたら》なことを云ってはいけませんよ。
みさ子 (かがんでレコードを調べていた手を止め、仰向き、訝
前へ
次へ
全37ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング