の女が針らしきものを社会生活にもちこんで以来、今日まで、女性のよりよく生きたいという希望は社会の発展とともにあらゆる面で複雑になり高度にもなって来ている。
幾世代の歴史の間で、人間はたしかに進歩して来ているのだけれど、その著しい進歩はどうして可能だったのだろう。
例を近くにとってみれば、一人の男、一人の女がそんなに入り組んだ諸要素をもって生れて来ていて、それでどうして、その要素の各方面にひっぱられてしまわないで、半歩なり一歩なり前進して来ているのだろうか。
結婚生活または家庭生活というものを、私たちはまだまだどこやら穴居人の洞めいたものに感じる蒙昧さがのこっていると思う。そこの内部は何か人目からかくされた場所で、そこにある丁度いい暖かさ、体にあった窪みを、ほかのものには相当堪え難い悪臭とともに、自分たちの巣の懐かしさとして愛着する、そういうところがありはしないだろうか。
家庭のくつろぎ、居心地よさというものを、その人のよさ、ねうち、生活への美しい意企を誰よりも深く理解しあった者同士が感じ合える、その味いとしないで謂わば手ばなしでめいめいの癖を出し合える場面として、ひとにも云えな
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